上町 正八幡宮
様式
上町の正八幡宮は、旧上村の村社です。祭日は12月11日と定められています。
祭神は、正八幡宮(誉田別命 ほんだわけのみこと)・五郎の姫神(神功皇后 じんぐうこうごう)・八王神(武内宿禰 たけのうちのすくね)、八社神(はっしゃがみ)、そのほか瀬戸神・若宮・守屋大神、四面(よおもて)、以上18柱と、境内社として富士天伯(ふじてんぱく)ほかがあります。
神社は、言い伝えでは建保(けんぽう)元年(1212)に京都から迎えて小さな祠にまつり、文亀(ぶんき) 2年(1502)に大宮を建立したといわれます。
しかし、火災に3度遭ったこともあって定かではありません。
現在の社殿は明治20年(1887)に再建されました。
舞殿に築かれた2基の土製の竈(かまど)は、もとは毎年すべてを造り替えていましたが、現在は数年に1度となりました。
その上には吊される「湯の上飾り」とあわせて「湯殿」とよばれ、いずれも細部にいたるまで深い意味が込められている点に大きな特徴がありま
す。
たとえば、湯の上飾りは「湯男(ゆおとこ)」「湯雛(ゆびな)」「日月」「人面(じんめん)」「八(やつ)橋」「花」「千道(ちみち)」「ひさげ」からなりますが、これらをあわせて「十種(とくさ)の神宝(かんだから)」、すなわち死者を生き返らせる呪具を意味するとされています。
また竈について、2基の竈は天地陰陽(いんよう)、釜柱の芯となる松の生木を八字形に立てるのは八紘(はっこう)の栄さかえ、それに巻く12尋(ひろ)の縄は12か月、その縄につく48のヒレは天地日月七曜九曜二十八宿、八尾根を越えて採ってくる12背負いの土は1年12か月、土に混ぜる28把の藁(わら)は二十八宿(しゅく)、それを36切にするのは天地三十六神、釜柱に着ける土玉を365個作るのは1年の日数をあらわすなど、徹底して意味づけがなされているのです。
屋外には、宮天伯社の横に「おわき」という竹の棒の先端に幣束を突き刺した、神々を迎える標木が立てられます。
神町の式次第
上町の祭りは、前日に準備と「宵祭り」があり、そして当日には朝から「湯の上飾り」 などの準備、昼過ぎに神職による祭典「例祭」を終えると、いよいよ「本祭り」の始ま りです。
まず「座揃え(ざぞろえ)」などで祭場を神楽歌によって清め、神々のやってくる道を開いたの ち、「神帳(じんちょう 神名帳)」を奉読して全国66ヶ国の一宮を迎え、祈願を「申上」ます。
そして、遠山氏一族の神名をかぶせた、「先湯(せんゆ)」とよぶ7立の式礼の湯立てをくり返して、「四つ舞」を舞います。
そののち、立願にもとづく湯立ての後、夜中の零時に四面(よおもて)に捧げる湯立て「御一門の湯」があります。
「襷の舞(たすきのまい)」「羽揃の舞(はぞろえのまい)」に続いて、神仏や森羅万象(しんらばんしょう)に捧げる「鎮めの湯(しずめのゆ)」を厳重(げんじゅう)におこないます。
「日月の舞」で招待した一宮をお返し、 以後は神社にまつる神々「御座の神(ござのかみ)」の祭りとなって、 いよいよ「面」17面の登場です。
翌朝を迎えた最後に「金山の舞(かなやまのまい)」「神送り」で神々・精霊(せいれい)を追い返し、祭りを終えます。
面(おもて)
上町正八幡宮の霜月祭りには、17面の面が登場します。
うち15面が正八幡宮の祭神 面で、残りの稲荷・山の神2面は末社の祭神面です。
15面は、江戸時代中期の延宝(えんぽう)4年(1676)に飯田の仏師井出(いで)氏(初代幸蔵か)によって神像とともに作られたと言い伝えられています。
しかし、明治18年(1885)の火災によっ て焼失してしまい、その翌年に12代井出嘉 汕(かせん)によって作られたといわれるのが現在の面です(実際は11代長吉か)。
17面の舞はつぎのとおりです。
このうち、富士天伯以外は2回くり返して登場します が、 2度目は立願(神への願かけ)を果たすためのものです。
末社2面をのぞく15面の構成は、 遠山氏の御霊を調伏するストーリーをもち、さらに祭り全体の湯立てや舞とも対応関係 がみられる点に、上町の大きな特徴があります。
神太夫・姥(かんだゆう・うば)
伊勢参りの途中で神社に立ち寄ったという設定です。
姥が氏子たちを祓い、神太夫(爺)が村人との問答の末に釜を祓い、氏子たちの長寿を祈ります。
そして、 湯釜をまわることなく、元来た道を帰ります。
それはこの夫婦が日月を表し、まわってしまうと月日が早く過ぎて悪いことがあるとされるからです。
八社神(はっしゃがみ 遠山氏の御霊 ごりょう)
源王大神(げんのうだいじん 遠山遠江守) ・政王大神(まさおうだいじん 遠山土佐守)、両八幡(先祀八幡=江戸家老、 後祀八幡=国家老)、住吉明神・日吉明神・一の宮・淀の明神(一の宮は遠山土佐守の奥方、 他は一族)がゆっくりと舞いながら湯釜を2周します。
稲荷(いなり)・山の神
末社の祭神2面による舞です。まず稲荷が登場し、つづいて山の神が剣 をもって舞います。
四面(よおもて)
最初に水王(みずおう)・土王(つちおう)の2面が登場して、水王は一の釜、木王は二の釜で、煮えた ぎる湯を素手で周囲にはねかけます。
これが終わると木王(きのおう)と火王(ひのおう)が登場し、4面がそろうと、湯釜の周囲の四辺をはげしく飛び回ります。
宮天伯
最後に富士天伯が弓矢をもって登場し、床を踏み鎮め、矢を五方に射って邪悪を 祓い除けます。最後に拝殿前で釜を向き、顔で「叶(かのう)」の字を描いて退場します。