和田系の霜月まつり
南信濃南部の和田の諏訪神社、八重河内の尾野島正八幡神社、南和田の大町天満宮の3ヶ所には、和田系と分類される霜月祭りが伝えられています。
3社は、尾野島正八幡神社に所蔵されている面を持ち回りで使用していますが、この面はかつてそれぞれの神社にあったものを集めたのだと伝えられています。
そのため、和田系の霜月祭りに登場する面は41面もあり、被り手を集めるのに苦労している神社もあります。
昭和50年代までは、各神社の禰宜が合同で祭りを行なっていましたが、現在では和田諏訪神社と尾野島正八幡神社にそれぞれ霜月祭り保存会が作られています。
そのため、次第や型は共通ですが、神社によって少しずつ個性の違いが現れはじめています。
大町天満宮では、和田保存会の協力を得ながら天満宮奉賛会によって祭りが行なわれています。
本祭り
- 【1. 湯の式(式の神楽)】(13:00~)楽堂(がくどう)(太鼓のある一角)で禰宜らが神楽を歌います。村内の神だけでなく、全国の大小すべての神々を呼び寄せます。
- 【2. ふみならしの舞】(14:00~)4人の禰宜が鈴と扇を持ち、炉の四隅を力強く踏みしめる舞をおこないます。
- 【3. 湯開き】(14:40~)太夫(禰宜の長)が炉の四隅で祓いを行ない、釜を覆っていた湯ぶたを取り除きます。
- 【4. 神清め】(14:50~)湯開きに続き、釜の湯を汲んで舞殿と境内に湯を撒き散らし、周囲を清めます。
湯立て
(15:00~) 和田系の霜月祭りで行なわれる湯立ては、「一の湯」「二の湯」「鎮めの湯」の三回です。
- 【5. 一の湯】(15:00~)和田系の霜月祭りで行なわれる湯立ては、「一の湯」「二の湯」「鎮めの湯」の三回です。
- 【姫舞(ひめまい)】禰宜と氏子あわせて12人が湯木と鈴を持ち、ゆっくりした単調な動きで釜の周囲をめぐる舞です。三周目になると「ちらし」といって舞のテンポが速くなります
- 【湯立て】神名帳を読み上げ、全国および村内の神々に湯を捧げます。「○○様へお湯召す時のおみかげこぐそ」と唱えながら湯木の先を釜の湯に浸します。すべての神々に湯が捧げられると、再び姫舞となり、本殿に拝礼して終わります。
- 【6. 下堂払い(げどうばらい)】三回の湯立ての間に、4人の舞手によって行なわれ、神々についてきた悪霊を追い払うものとされています。初めは鈴と扇、次に鈴と剣(刀)を採って舞います。激しい動きの伴う勇壮な舞です。※写真は尾野島正八幡神社
- 【7. 二の湯】(16:40~)6人で、一の湯と同じことを行ないます。
- 【8. 小中学生の舞】(17:30~)地元の小中学生が、日ごろの練習の披露をします。祭りの保存伝承のために、昭和60年から始まりました。
- 【9. 鎮めの湯】(20:00~)12人で行なわれる、最後の湯立てです。
- 【10. 八乙女】(21:00~)禰宜や氏子らが拝殿に立ち、手にした半紙をゆらしながら謡曲をうたいます。
- 【11. 火伏せ湯伏せ】(21:10~)太夫が釜に向かって九字を切り、湯切りをします。これによって煮えたぎる湯が静まるといわれます。
12. 面(おもて)
(21:30~) 水の王を皮切りに、41人の面が次々と登場し、時計回りに釜を3周します。腰に手を当て、大きく足を踏み出すその歩みは「六方(ろっぽう)」と呼ばれています。面の数が多いので、来賓や観客も面を被ることが許されます(男性のみ)。面のうち、主なものを紹介します。
- 【水の王】釜の周りを5周します。2周目に炉の四隅で印を結び、3周目に湯切りの真似をし、4周目に湯切りを行ないます。※写真は大町天満宮
- 【火の王】水の王の次に登場します。特別の所作はありませんが、水の王が鎮めた火をおこす力を持つといわれています。※写真は和田諏訪神社
- 【諏訪大明神】和田諏訪神社では、祭神として火の王の次に登場します。※写真は和田諏訪神社
- 【八幡大神】尾野島正八幡神社では、祭神として火の王の次に登場します。※写真は和田諏訪神社
- 【天満宮】大町天満宮では、祭神として火の王の次に登場します。※写真は大町天満宮
- 【遠山様】農民一揆で滅ぼされた遠山氏の面といわれています。※写真は和田諏訪神社
- 【遠山若党】遠山氏の若党の面とされており、同様の面があわせて6つ登場します。※写真は和田諏訪神社
- 【しょんべんばあさ】終盤に登場し、笹をたばねた湯たぶさを釜の湯に浸し、観客にふりかけます。※写真は和田諏訪神社
- 【神太夫】ばあさとともに登場し、関守(せきもり)役の氏子と問答をします。「見苦しい姿では街道を通さぬ」と言われて刀や烏帽子・湯衣(ゆごろも)などを取り上げられ、最後にばあさと抱き合ってもと来た道を引き返します。※写真は和田諏訪神社
- 【猿】最後に登場。合計で5周半、体をかがめて何度も跳び跳ねなければならない大変な舞です。跳ねる回数は七五三で、祝福の意味がこめられていると考えられています。※写真は和田諏訪神社
- 【13. 神送り】(23:20)太夫が炉の西隅で神返しの言葉を唱えます。「もず」と呼ばれる氏子二人が笹を持ち、言葉の合間に「キチキチ」と言いながら太夫の前をすれちがいます。この所作の意味はよくわかっていません。
- 【14. かす舞】(23:30)刻んだ大根を載せた膳をささげて舞います。「大荒神(だいこうじん)となーる、小荒神(しょうこうじん)となーる」という歌にあわせて舞い、最後に「カスに大根手づかみよ」と唱えながら大根を撒き散らします。その後、釜の四方に結界を張るような所作の「天地天地の舞(てんちてんちのまい)」をおこないます。
- 【15. ひいな降ろし】(23:40)笹と鈴を手に「ふみならしの舞」を舞った後、白紙をちぎって「破れ紙は千枚よ」と唱えながら炉の5隅(西に二回)置きます。その後、「何尋(なにひろう)?」「千尋(ちりひろう)」と観客と掛け合いながら紙を拾い、八将神(はっしょうじん)(炉の四隅に挿された幣串)を抜いて火の中にくべます。
- 【16. 金剣の舞(かなづるぎのまい)】(23:50)ふみならしの舞の後、剣をささげて舞います。「剣めんせ(剣召せ)「八剣めんせ」の声とともに腰をかがめて炉の周りを行き来し、最後に「ホンヤラホンヤラ」と唱えながら湯飾りを切り捨てます。九字を唱えながら、炉の西隅から東方に向けて剣を突き刺す所作をします。このとき、剣の刺す方向に立つ者は命を落とすと言われます。
- 【17. 釜返し】(0:00)鈴と笹を持った舞人が釜から湯をすくい、氏子総代の持つ扇の上にあける所作をします。これで一切の儀式は終わり、万歳三唱・直会でしめくくられます。
※ 各次第の時間は、平成15年の和田諏訪神社のものを基準にした目安ですので、年ごと、神社ごとに違いがあります。祭り見学の際には、事前に遠山郷観光協会にお問い合わせください。
※ このページの内容については、『南信濃村史 遠山』と平成15年の取材をもとにしています。