下栗の拾五社大明神
様式
下栗の霜月祭りは、遠山郷でもっとも高所にある集落―飯田市上村下栗にある神社の祭りです。
標高は997mを測ります。
霜月祭りの祭日は、戦前までは12月12日でしたが、1月4日になり、さらに平成10年から12月13日に改められました。
神殿には3宇の大きな祠(オタマヤ)が並びます。
中央が拾五社大明神で、向かって右が両八幡、左が八社神(はっしゃがみ)です。
また、その間には右に一の宮、左に二の宮が小さな祠にまつられています。
そして、屋外の鳥居の脇には若宮があります。
なお、現在、この神社は中央の祭神の名でよばれますが、文久2年(1862)の古文書には「霜栗八社神様」と記されています。
神社は、神殿の前面に拝殿があり、その前に広がる舞殿(前宮)の中央には大きな火床(ほど)が設けられ、 2口の湯釜が鉄製の五徳に据え付けられます。
その真上には「火のあて」が吊され、煙出しの梁 はりに打ちつけられた「三大山(さんたいやま)」から、「十六天」とよばれる紙垂(しで)が長く垂れ下ります。
「湯桁(ゆげた)」とよばれる木枠には、正面に「日天」「月天」「徳利(とっくり)」「鳥居」「橘 たちばな」「下がり藤」、向こう正面には「七条格子」、左右には「横一文字」が貼られます。
神殿と対面する壁には「日待棚(ひまちだな)」があり、使用済みの湯木がのせられます。
さらに神殿の背後には、祭りを主になってつとめる「三太夫(さんだゆう)」 3人(拾五社・両八幡・八社の宮元)と、屋敷津島牛頭天王社の宮元1人、「そで禰宜」 3人が籠もる「精舎(しょうじゃ)」という部屋があります。
下栗の式次第
下栗の祭りは、12月1日に祭りに使う甘酒「きしめ」の仕込みから始まります。
そして前日に準備と「宵祭り」をして、当日の「本祭り」を迎えます。
まず「開式」で浄め・七五三引神楽をしたあと、祓沢に「水迎え」に行きます。
「座揃え(ざぞろえ)」で祭場を神楽歌によって清め、神々のやってくる道を開いたのち、 「神名帳(じんめいちょう)」を奉読して全国66ヶ国の一宮を迎えます。
最初に「式の湯(拾五社の湯)」「 天王(てんのう)の湯」とよぶ湯立てがあり、「喜びの舞」をはさんで「村内安全祈願の湯」をした後、使用済みの湯木を持って村人も湯立てに参加する「眷属(けんぞく)の湯」がおこなわれます。
祭りを主宰する三太夫(さんだゆう)の「家清め」や「宮清め」の後、「中祓い(なかばらい)」で招待した一宮をお返しすると、以後はいよいよ村内の神々の祭りです。
「鎮めの湯(しずめのゆ)」の後、赤い襷(たすき)と白い襷を締めた「襷の舞」を下栗では2社分の8人で舞います。
続いて、39面の「面」が登場します。
「かす舞」で残っている神々・精霊を追い返して湯のあてのタカラを切り落とす所作をしたのち、「反閇返し(へんべがえし)」で祭具をまつって祭りを終えます。
面(おもて)
下栗の拾五社大明神の霜月祭りには、39面の面(おもて)が登場します。
その内訳は、江戸時代後半期~末期にさかのぼるものが20面、残りは明治時代です。
この面の大きな特徴は、同じ祭神の面が2面ずつみられることですが、その理由は明治31年(1898)頃に拾五社から離れて祭りをはじめた屋敷の津島牛頭天王社(つしまごずてんのうしゃ)の面を、大正12年(1923)頃に加えたからです。
もともと拾五社のものだった面は27面、津島牛頭天王社の面は12面と推測されます。
面の登場する順序はつぎのとおりです。
日天(にってん)・月天(がってん)(拾五社分)
宮元祢宜と太夫が着けます。
まず日天が登場して一の釜、二の釜の順に、印を結んで「鎮めの呪文」を唱えてから、素手で湯を周囲にはねかけます。つづいて月天も同様にします。
八社神(はっしゃがみ)
遠山氏一族をかたどる「両八幡」や「宇佐八幡」など男7面と、「一の宮」の女1面が登場して湯釜を2周します。
津島牛頭天王
屋敷の津島牛頭天王社の祭神です。
湯釜を2周します。
子安様
下栗区の最も奥にある大野の子安神社の祭神面です。
人形を抱いて2周します。
人形にさわると、子宝が授かったり安産になるといわれます。
辰巳山神(たつみやまのかみ)
本村にまつる山神の祭神です。
2周します。
日天・月天(屋敷分)
最初の拾五社分と同じように、屋敷の津島牛頭天王社の2面が登場して湯をはねかけます。
四面(よおもて)
若者が着けた4面が竈の周囲を荒く飛び跳ねます。
拾五社分と屋敷分の2組があります。
秋葉神
烏天狗の面です。
日天・月天と同じように湯をはねかけます。
池大明神・若宮
末社の祭神です。
2周します。
稲荷
泉七匹稲荷(いずみしちひきいなり)(拾五社分)と中入稲荷(なかいりいなり)(屋敷分)の2面が狐の真似をして舞います。
龍頭(たつがしら)・ちんちゃこ
小学生の着けるちんちゃこが龍頭の頭を軽く叩きながら登場し、最後は龍頭が床に寝そべって舞います。
下栗だけにある面です。
神太夫(かんだゆう)・婆
最初に婆2面が登場して手に持つ檜の枝で村人を祓ってまわります。
遅れて神太夫2面が伊勢音頭にのって登場し、最後は婆と肩を抱いて帰ります。
宮天伯
最後に神社の守り神である宮天伯2面が木製の剣を持って登場して五方に舞います。
最後に拝殿前で釜を向き、剣で「叶(かなう)」の字を描いて退場します。