木沢の正八幡神社
様式
木沢の霜月祭りは、飯田市南信濃にある旧木沢村社・八幡神社の祭りです。
祭日は12月10日でしたが、平成21年から12月第2土曜日に改められました。
神社の祭神は、神殿に誉田別命(ほんだわけのみこと)ほか遠山氏にちなむ八社神(はつしゃがみ)を含めた12柱、向かって右手の御鍬大神舎(ごくわおおかみしゃ)に3柱、左の池大明神舎(いけだいみょうじんしゃ)に5柱がまつられます。
この神社は遠山土佐(とおやまとさ)の守(かみ)によって文亀(ぶんき) 2年(1502)に建立されたと伝えられ、古くは遠山全体(遠山6ヶ村)の惣鎮守(そうちんじゅ)であったともいわれます。
寛文(かんぶん)2年(1662)に代官市岡利右衛門(いちおかりえもん)によって修復(しゅうふく)、さらに文化14年(1817)に再建されたのが現在の社殿(拝殿・舞殿 まいでん)です。
神殿は明治21年(1888)に木曽亀坂田亀吉(ことさかたかめきち)によって造られました。
神殿の前面には広い拝殿があり、さらにその前に板の間となる舞殿があります。
その中央には大きな土製の竈(かまど)が設けられ、3口の湯釜(ゆがま)が据えつけられています。
神前に向かって左から「一の釜」「二の釜」「三の釜」です。
竈が3口となるのは遠山でもこの木沢だけです。
その真上には「湯桁(ゆげた)」とよばれる四角い木枠が吊され、さまざまな切り紙で飾られますが、これを「湯のあて」とよびます。また竈の横には火床(ほど)があり、これは「不浄火(ふじょうび) 」とよばれて、参詣者(さんけいしゃ)のけがれをその煙ではらうものといわれています。
湯のあてには、湯釜の真上に「湯男(ゆおとこ)」とよばれる幣束(へいそく)が吊され、その尻から湯桁の注連縄(しめなわ)にかけて「八つ橋」と「千道(ちみち)」とよばれる切り紙が渡されます。湯桁の正面(南)と向正面(北)には「鳥居」、左右面(東西)には日月を表した「日天子月天子(にってんしがってんし) 」が中央につき、そのほか「格子(こうし)」とよばれる切り抜きが貼られます。
舞殿の北東隅には、藁(わら)ツトに白紙の小幣12本を差した「八乙女(やおとめ)」が飾られます。
また、屋外の石段横の木には、白・赤の紙を折った幣束12本と「天狗幣(てんぐべい)」1本を差した「神おろしのおやま」が結びつけられます。神々を迎えるための標(しるし)です。
木沢の式次第
木沢の霜月祭りは、前日に準備と「宵祭り(よいまつり)」をし、当日は朝から、湯立ての水を迎える「若水迎え」がおこなわれます。そして、神職による祭典を終えると、いよいよ「本祭り(古典祭)」の始まりです。
まず「ひよしの神楽(かぐら)」で祭場を歌によって清め、神々のやってくる道を開いたのち、「神名帳」を奉読して全国66ヶ国の一宮(いちのみや)を迎えます。
そして、最初に「式の湯」とよぶ7立の湯立てがくり返されます。
いずれも神社や集落内にまつる神々による湯立てで、その最後を「太夫舞(たゆうまい)」で締めくくります。
神社を湯で清める「宮浄め」に続いて、鬼門の隅にまつる幣に歌を捧げる「八乙女(やおとめ)」があり、扇と剣(刀)による「四つ舞」が4人で舞われます。
「天伯の湯(てんぱくのゆ)」では使用済みの湯木を持って村人も湯立てに参加します。
「中祓い(なかばらい)」で招待した一宮をお返しすると、以後は村内にまつる神々の祭りとなります。
赤い襷(たすき)を締めた「襷の舞」に続いて、面神に湯を捧げる「鎮の湯(しずめのゆ)」があり、32面の「面」が登場します。「かす舞」で残っている神々・精霊を追い返し、釜を崩くずす所作をして祭りを終えます。
面(おもて)
木沢八幡神社の霜月祭りには32面の面(おもて)が登場します。
その内訳は、江戸時代初期の面が15面、同中期の寛延(かんえん)元年(1748)頃の面が2面、同後期の天保(てんぽう)9年(1838)が2面、明 治時代が11面、昭和28年(1953)が1面です。
そのほか霜月祭りに使用しない「古代面」 とよばれる古面があり、鎌倉~南北朝時代の作と推定されています(現在は遠山郷土館に展示 中)。面の登場する順序はつぎのとおりです。
大天狗 (火の王)
宮元祢宜(みやもとねぎ)が着けます。
一の釜の前に立ち、「火伏せ湯伏せ」の呪文(じゅもん)を唱え、九字(くじ)を切ってしずめてから、湯を素手で周囲にはねかけます。
遠山氏の御霊・村内の祭神
遠山氏をかたどる「源王大神」「正王大神」、「一の宮」「二の宮」、「親城大神」、「若殿大神」 7面をはじめ、神社の祭神「八幡大神」や末社小嵐稲荷神社の祭神「小嵐大神」4面など、集落内にまつられる神々の面が登場して竈を1周します。
四面(よおもて)
遠山川でコリトリ(禊ぎ)をした4人の若者が着けて、竈の周囲を激しく飛び跳 ねます。最後は拝殿に無理やり押し込まれます。
両老人
最初にばあさが登場して手に持つ榊(さかき)の枝で村人を祓ってまわります。遅れて伊勢音頭(いせおんど)にのってじいさ(神太夫 かんだゆう)が登場し、最後に二人は肩を抱いて帰ります。
大黒天
「大黒様音頭」にのって1周します。
舞稲荷
小嵐稲荷神社の祭神であるお狐様の舞です。
狐のまねをして舞います。
小天狗(水の王)
祭りの進行をつかさどった「湯木係(ゆぼくかかり)」がつけます。
一の釜の湯を素手 で跳ねかけますが、このとき宮元祢宜が背後で「火伏せ湯伏せ」の呪文を唱え ます。
宮天伯
最後に神社の守り神が木製の剣を持って登場します。
五方を踏んでにらみ、剣を振り、剣先を水平にかまえる動作をくり返します。
これで邪悪(じゃあく)を切り祓うの です。
最後に拝殿前で釜を向き、顔で「叶(かのう)」あるいは「寿(ことぶき)」の字を宙に描いて退場します。